大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和53年(う)650号 判決

被告人 長谷川健三

〔抄 録〕

刑事訴訟法三二六条一項に証拠とすることの同意をなすべき主体として明文上規定されているのは検察官及び被告人のみであるけれども、弁護人もまた、その有するいわゆる包括代理権に基づき、被告人の意思に反しない限り同意することができるものと解すべきであって、被告人が公訴事実を否認しているのに弁護人のみがこれを認め、その主張を完全に異にしているなど、弁護人が証拠とすることに同意する旨陳述しても、これが果して被告人の意思に添うものであるかどうか疑わしいものとされるような特段の事情のある場合を除き、弁護人が証拠とすることに同意し、在廷の被告人が特にこれに異議を述べなかったときには、被告人もこれに同意したものと解して、証拠とすることができるものというべきである(所論引用の札幌高等裁判所昭和二五年五月三一日判決―高刑集三巻二号二一一頁―も同旨である。)。これを本件についてみるに、記録によると、原審公判廷において、被告人が本件窃盗未遂の犯行に及んだ事実を一貫して否認していたことは所論のとおりであるが、原審弁護人もまたこれに同調して終始無罪を主張していたものであって、ただこれが容れられず有罪とされる場合に備えて寛刑を求める主張を付加していたに過ぎず、決して被告人と弁護人とがその主張を異にしていたというものではないことが明らかであり、しかも原審弁護人が所論指摘の各書証を証拠とすることに同意する旨陳述した際、被告人は存廷しながら何ら異議を述べなかったことがうかがわれ、他に弁護人の右意見が被告人の意思に添わないものと疑うべき特段の事情も認められない。してみると、原審がとくに被告人の意見を確かめることなく、右各書証を同意書面として採用し、事実認定の証拠としたのは適法であって、その手続に所論の違法は存しない(所論引用の最高裁判所昭和二七年一二月一九日第二小法廷判決―刑集六巻一一号一三二九頁―は、事案を異にし、本件に適切でない。)。

(岡村 小林 南)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!